こんにちは。
今週は小川洋子さんの短篇小説集「約束された移動」を読みました。
小川洋子さんの描く、偏愛小説はとても好きです。
その愛の対象は、ハリウッド俳優であったり、ダイアナ妃であったり、
ナイトクラブの歌手であったり、巨人であったりする。
主人公は、職業を持った女性であるものが多い。
ホテルの客室係、病院の案内係、デパートの迷子係、
託児所の園長、外国語通訳など。
それぞれ、天職なような仕事を見つけ、ひたむきに働く。
そして、「密やかに愛する対象」を見つける。
見つけてしまう。
愛する対象からの見返りなどひとつもなくてもいいのである。
ただ愛する。
ただひたすらに愛する。
密やかに愛する対象について語る主人公たちは、
周囲から見ると滑稽であったり、グロテスクであったり、
ギョッとするような有様であったりする。
しかし、そんなことは、主人公たちにとっては、取るに足らないことである。
見返りを求めずに愛し続けることの出来る対象を
見つけてしまった人たちのうっとりするような恍惚と孤独。
6篇すべて素晴らしいのだが、ゆるよし的には2篇目の
「ダイアナとバーバラ」に出てくる
ダイアナの継母の元夫が、子供を捨てて不倫に走った妻に憤慨し、
画家に頼んで家族の肖像画に描かれた妻の姿を木に変えさせた
というエピソードが気になりました。
そのエピソードに感心した主人公のバーバラが、別れた夫の写真を
黒いマジックペンでキュルキュルと一本の木にするべく塗りつぶしていく。
元夫が木に生まれ変わるのは、あっという間だった。
爽快というより、物足りなかった。
自分たちが受けた仕打ちの分量とくらべ、あの男が
樹木になるために味わう苦痛の時間が不当に短すぎる気がした。
「仕打ちの分量!」
いいなぁ。
日常から離れた場所に言葉によって一瞬で連れていってくれる
小川洋子さんの小説を読めることは本当に幸せである。
それではみなさま、よい週末をお過ごしください。