土曜コラム

土曜コラム 今週の読書 朝倉かすみ 山本周五郎賞受賞作「平場の月」感想

moonlight

こんにちは。

今週は朝倉かすみさんの小説「平場の月」を読みました。

 

朝倉かすみさんは好きな小説家のひとりで、

本屋さんに行ったら、文庫の新刊が出ていないか

チェックするようにしています。

「あ行」では朝倉かすみさんと朝井リョウさんをチェックしてます。

 

「平場の月」は山本周五郎賞の受賞作。

 

中学校の同級生だった青砥(男)須藤(女)

紆余曲折を経て、50歳のバツイチひとり身となったもの同士として

地元の病院の売店で再会して・・・というお話。

 

青砥は離婚して地元に戻り、施設に入所している認知症の母に

毎週日曜日、マジックで名前を書いたネクターを届けるような男性。

須藤も離婚後、年下の男とひと悶着あり、地元に帰ってきて

病院の売店で働き、アパート暮らしをしている女性。

 

ふたりは、中学時代にちょっとした二人だけしか知らない

出来事を共有している。

 

病院の売店で再会したふたりは「互助会的な」飲み会を

あまり気も進まないようなフリをしながらはじめる。

章立てが須藤のセリフになっているのだが、

それもいい。

読み終わってからでも、そのセリフがじんわりと心に沁みてきます。

 

「平場」というのは「市井の人の場」のこと。

つまり、フツーの平凡な場所。

須藤のアパートは「コジマ、ニトリ、通販」の家具でまとめられ、

印刷会社に勤める青砥の年収は350万円を少し切るくらいで、

軽自動車に乗り、「発泡酒」を飲んだり、「助六」が好きだったりする。

全然キラキラしていない、50歳のふたり。

 

地元であることから、他の中学校の同級生も登場する。

パート従業員としてや、買い物中のスーパーで遭遇し、

下世話なうわさ話を聞かせてくる。

平場中の平場。

しかし、どんな過去の悪いうわさ話を聞かされても青砥は揺らがない。

青砥の内側で、須藤は損なわれなかった。

青砥の中で須藤の価値は下がらない。

 

とにかく、須藤がいい。

中学の時から太ってる訳でもないのに「太い」と感じさせる女性。

中学の時からずっと両手をグーにして立っている。

そんなイメージ。

 

ふたりの関係は、友情から恋愛へと移行してゆく。

須藤は大腸がんを患っており、ストーマ(人口肛門)を

装着しなければならなくなるのだが、中年以降の恋愛の現実が

描かれていて、沁みました。

 

ゆるよしは、仕事で時々、多目的トイレを計画したりすることがあり、

ゆるよし
ゆるよし
オストメイト、、、、要るか?

などと思っていたのだが、

ゆるよし
ゆるよし
オストメイト絶対要るね!

という気持ちになりました。

こういうことを実務ではなく気づかせてくれるのも

小説を読むことの利点のひとつだと思う。

 

ひとりで生きていくと決めている須藤

須藤と生きていけたらそれでいいと思う青砥

 

青砥須藤の気持ちを尊重しようとする。

でもそれでよかったのか?

須藤はこの世にひとりしかいない。

須藤以外の須藤など、いるはずがない。

須藤がいなくなっただけで、世界はこんなに変わるのだった。

 

ささやかだけれども、ほんとうに宝物のような恋愛の話でした。

後悔しないように生きていきたいものだと思いました。

 

「平場の月」は映画化されるようです。

配役はまだ未定のようですが、ゆるよしがキャスティングするなら

須藤役は池脇千鶴さんですね。(ちょっと若いか)

両手をグーにして仁王立ちしている須藤を演じて欲しい。

 

全編青砥(男)側の視点で書かれている小説なのだが、

須藤(女)側の視点から書かれたものも読んでみたい。

とてもおススメ。

 

早くも、ゆるよしランキング、2022年ベストワンです。

 

それではみなさま、よい週末をお過ごしください。

観音拝宝塔図
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